配偶者控除の見直し提言に、障害児の親「働きたい。でも…」識者は手当の拡充求める

「配偶者控除の見直し」提言を受け、働きたくても働けない人から不安の声が上がっている。 ケアワーカーとして15年以上のキャリアがあり、働く意欲も強い女性。障害のある長男の預け先がなく復職は叶っていない。控除撤廃なら、施設の拡充など代わりの支援策も用意されるべき

政府が閣議決定した2022年版の男女共同参画白書で、配偶者控除などの制度を見直す必要があるとの提言が盛り込まれた。

「もはや昭和ではない」

「家族の姿は変化し、人生は多様化しており、こうした変化・多様化に対応した制度設計や政策が求められている」ーー。

共働き世帯が増える一方、専業主婦の減少傾向が続いていることなどを踏まえ、時代に合った制度への変更を求める内容だ。

見直しの提言を前向きに受け止める声が上がる一方、生活介助が必要な親や子など家族のケアのため、働きたくても働けない状況に置かれた人たちからは不安の声も聞こえる。

障害や大した医療的ケアが必要で無くても難病の子供を持つ親は働けない。世の中には発達支援の通所はあるのにうちの子のような難病持ちが通える場所は無い。保育園などは配慮が必要だと預かってくれず、預けられたとしても呼出が多くなり 働けず、働けないと保育が必要と認められず預けられない。

配偶者控除は、日本では不十分な公的福祉を補うため、ケアの担い手を家庭内に置き、その人が外で働けない分の事実上の“補填”とされてきた側面もあるからだ。

何が問題になっているのか。配偶者控除が廃止されるとしたら、代わりにどんな福祉制度が必要なのか。

医療的なケアを必要とする子どもの親や専門家に聞いた。

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妊娠31週の妊婦健診の日。稲葉さん=福岡県=は、おなかの子の心臓などに異常があると医師に告げられた。その1か月後の検査で、染色体に異常がある「18トリソミー症候群」との診断を受けた。

「もうすぐ生まれるという時に、私たち夫婦は赤ちゃんをどう看取るかという話をしなければならなくて。頭が真っ白になりました」

「生きて生まれてくることはできない」と医師から告知を受けていた赤ちゃんは、お産時に仮死だったものの、新生児集中治療室での入院を経て奇跡的に命をつないだ。誕生から1か月足らずで、きょうだいの待つ自宅に連れ帰ることができた。

稲葉さんの第三子であるじゅん君は現在、1歳8か月。首も腰も座らず、酸素チューブを24時間装着したまま、ベッドで寝たきりだ。10を超える合併症を抱え、体調はいつ急変してもおかしくないため、一日中付き添いが欠かせない。

病院勤務の夫は夜勤が多い。この2年弱、夫の勤務時間中は稲葉さんがじゅん君のケアを担っている。夫が自宅にいる時間に合わせて仮眠をとる生活だ。双方の実家の両親はいずれも持病や高齢のため、頼れない。

複数の保育園に掛け合ったが、障害の重いじゅん君を受け入れる態勢が整っていないとして拒まれたという。

一日に利用できる訪問看護サービスは1時間ほど。じゅん君を受け入れてくれる通所支援のデイサービスが見つかり負担は軽減されたものの、重度の障害児に対応できる看護師は人数が足りず、利用できるのは月に2〜6日。その上預けられるのは送迎時間込みで一日4時間だ。

稲葉さんは、病院のケアワーカーとして15年以上のキャリアを積んできた。志したきっかけは高校生のとき。パーキンソン病の祖母がスプーンを使って食べ物を口に運ぼうとした際、訪問看護師が「こぼれたら掃除しなきゃいけないでしょ。こっちが食べさせるからやめて」と、きつくたしなめたことにショックを受けた。

「自分の体で人生を少しでも楽しんでほしい。生きてるっていいなって、いくつになっても思ってもらえるようお手伝いがしたかったんです」

日常生活の介助をサポートする中で、その人のできることが一つひとつ増えて笑顔になる。退院後、患者さんが「顔が見たくなっちゃって」と会いにきてくれる。仕事にこの上ないやりがいを感じていた。

じゅん君が生まれてからは、預け先がないため復職が叶わず育休を取得している。秋には2年間の期限を迎え、このままいけば稲葉さんは職を失うことになる。

配偶者控除や障害者控除を受けているほか、特別児童扶養手当や介護手当などで毎月約7万7000円が支給されるものの、フルタイムで働きボーナスも受け取っていた頃の収入には程遠い。

「上の子2人もこれからますますお金がかかる時期になるのに、今の状況でさらに配偶者控除が見直しとなったらどう暮らしていけばいいのか…」

配偶者控除見直し求める 家族の姿「もはや昭和ではない」―男女共同参画白書 専業主婦を前提とする配偶者控除や、厚生年金加入者の配偶者が保険料負担なしで年金を受け取れる「第3号被保険者制度」などを念頭に「さらなる取り組みが必要だ」と見直しを求めた。

「夫と専業主婦の妻と子」を優遇する配偶者控除の見直しは長年の課題ですがが、枠組みは変えられずにいます。今後の見通しはどうなるのでしょうか